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夕方から降り始めた雨は、夜の8時を過ぎて多少雨足の弱まりを見せたが、それでも止むことは無かった。ふと目線を上げて、外の景色に目をやる。電車の窓ガラスに滴る雫に反射するネオンが飛び込んできて、僕の視界を滲ませる。しばらく何も考えずに、外を見ていて、そして、また持っていた本に視線を戻す。

『そういえば』と、僕はちょっとした既視感をおぼえる。

…少しだけ考えて、僕は本を閉じ、読んでいた本の背表紙に目をやり、その本の作家の著書欄に目をやる。そして数行目で目を止める。

それはあった。タイトルに導びかれた物語が僕の脳裏を過ぎり、疾風のように一服の清涼感を残して、駆け巡り、やがて消え入った。



…僕はその疾風から連想された思い出の存在を無視できなくなり(その思い出は瞬くまに僕の中を一杯に満たし始めた)本をそのまま鞄に入れ、再び電車の窓ガラスに視線を移した。薄ぼんやりと…春の雨の雫の一粒一粒を、散らばるネオンの一つ一つを、まるで、数年前の春の夜の思い出一つ一つに見立てるようにして、僕は彼女との記憶に包み込まれていった。


* * *

足早に行き交う人波は、四方八方からやってきては、交錯し、八方十六方に散っていく。数知れない膨大な量の人の意志が集積するの中で、ただ1人、僕と全く同じ意志を持つ女性を僕は探しながら、僕は駆け足にエスカレーターを駆け上がる。


僕はキミに電話をすると、キミはすぐに出てくれた。僕は、何時間も待たせてしまったことを詫び、そしてどこにいるのかを確かめた。

キ「…みどりの窓口の近くかな?」

僕「みどりの窓口、みどりの窓口…」

そう繰り返しながら、僕はキョロキョロして、緑の窓口を探す。そして、左斜め前方に、大きなみどりの窓口をみつけ、

僕「あっあった!じゃあ、てか、すぐ着くよ。スーツ着て、春なのにストール巻いてる不審な奴が僕です(笑)」

キ「あはは(笑)早くきてぇ~!!笑」

…そういって電話を切ると、僕は人波を縫うように、みどりの窓口に向かって歩いていく。程なく時計台の下にいる女性に遠巻きに近眼ながらも、気が付いた。伝え聞いていた服装どおりのキミは、どこか所在無さ気で、それでいて、どこか大人びていた。

僕は歩く軌道を修正して、キミの真正面に移動する。君も正面からまっすぐに自分に向かってくる不審な男の存在にすぐに気づき、僕を見る。僕は20mくらい手前から、少しだけ会釈をすると、不安そうだった顔は、すぐにぎこちない笑顔に変わり、そして僕もぎこちなく歯を見せる。

目の前まできて、改めて

僕「はじめまして。ハルキです。」

キ「あっはじめまして、キミです。てか、ホンマのハルちゃんやぁ~!!!」

関西特有のイントネーションとスピード感でキミは言った。そして、キミのいきなりのはしゃぎっぷりに、僕はあっという間に相好を崩して、笑った。すると、キミも「アハハハ!!」すぐに笑った。

僕「んーと…じゃあ、行こうか?」

といって荷物を持っていない側に立って、荷物を持っていない側の手の近くに僕の右手を差し出すと、キミはちょっとだけザラついた手で僕の手の平を握ってきた。

キ「ハルちゃんの手温かい(笑)」

僕「ごめんね…待たせちゃって…」

キ「ううん。こっちこそ、平日に時間作ってくれてありがとう」

健気な様子でキミが僕の方を向いてそうやってつぶやいた。僕はちょっとだけ見下ろすようにキミの横顔を見る。愛らしいおでこと唇にが目に留まる。ちょっと笑って

僕「何言ってんの!!遠いところ、こっちこそありがとう」

そうやって、ちょっとだけ強く手を握った。

相も変わらず、足早に行き交う人波は、四方八方から交錯し、八方十六方に散らばっていくようで、この巨大なターミナル駅の中は、まるでグランドラインのように、次々に進路を変更しなければ、はぐれてしまいかねない。僕はせっかく見つけたキミを、離さないように、手をしっかり握りしめながら、歩様を合わせるように歩き始めた。


僕らは手を繋ぎ、駅の構内をゆっくりと歩き、外に向かう。何度か電話で話をしたことがあったのと、キミの人懐っこく社交的な性格のせいか、会話は澱みなく続き、

僕「どう?東京は?笑」

キ「うん。人がみんなメッチャ歩くのが早い!!笑」

僕「そっちは喋るのが早いよね?笑」

キ「あっそうかっ!そう言われるとそうやんな~笑」

僕「まぁ俺もどっちかっつーと早口だから、心地よい速さではあるけどっ」

キ「ほんまにぃ~?そう言ってもらえると、嬉しいわぁ~」

そんな話をしながら、キミの手を引き、僕は駅の構外へと出る。外は春の訪れを告げるような、雨が降っていて、キミは傘をもっていなかったので、僕がさっき買ったビニール傘にキミを招き入れる。

決して大きい代物ではないので、自然と肩を寄せ合うようにして、横断歩道の上を歩く。眼下の第一京浜上には、行き交う車に灯った明かりが、雨に滲んで幻想的な色彩を僕らに映し出していた。

僕はキミの肩が濡れないように。キミは僕の肩が濡れないように、互いに傘の外に外にでるもんだから、横断歩道を渡り終える頃には、結局2人とも濡れてしまっていた。

そのまま、キミを連れてホテルに入る。チェックインは既に済ましていて、そのままロビーを抜けて、エレベーターを待っていると、丁度キミと同い年くらいの若い女の子達の3人組と居合わせた。

僕は頭の中でキミをその3人組みの中に加えて4人組にしてみた。…この中にいたら、間違いなく、浮いてしまううことになるだろう。容姿面でキミが一番可愛いのは別にしても、服装やメイクに違いは見られない。それでも、やっぱり、キミが際立って見えるのは、やはりキミには、大人びた雰囲気を醸し出させる何かがあるのかもしれない。

エレベーターが目的の階に着く。キミを先に降ろさせて僕もすぐに後を追う。この階で降りたのは、僕とキミだけだった。キミの手を取り、絨毯で敷き詰められた廊下を僕とキミは無言で歩いた。

いくつもいくつも区切られた個室のドアを通り過ぎる。そのドアの中には、それぞれに、悲喜交々なそれぞれの思いがあることは容易に想像できる。それでも、同じデザインで違う番号が刻印されてるだけで、一見すると他の部屋との区別などは付かない。そして、当然、僕らもその一つに過ぎない。

そんなことを考えてると、やがて、僕らの部屋の前に来た。

キミは緊張の面持ちで、僕のそばに立っていた。僕はちょっとだけ微笑み、財布から部屋のカードを取り出す。カードを差込み、ドアの取っ手に手を置いた。カチャと小さな音がカードの識別を終える合図をしてくれた。僕はゆっくりとドアの押し開く。


ドアが開く。いや扉が開く。魔法の扉。
少なくとも今宵に限っては。
少なくとも、僕らにとっては。
日常と非日常を隔て、僕ら2人を1つの存在たらしめる魔法の扉。

僕とキミの思い出を紡ぎ出し始めるこの扉は、開け放たれ、あっという間に、僕ら2人を飲み込むと、そして閉じられ、カチャっというオートロックの音をほのかに響かせて、何事もなかったかのよう、再び、堅く閉ざされると、また何百個も存在するドアの中の一つドアに戻っていった。



…ここから先は、僕と君だけの記憶だね。それはそれでとても大切にしてきたけれど、それでも、僕は自慢をしたいんだ。君と合えた喜びを、君の素敵さを。だから、そろろみんなに教えてあげてもいいだろう?ねぇ?キミ?


つづく


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